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限りある命が、ものを美しくする

YOUTUBEを眺めていると、ふと、私が10代や20代の頃に聴いていたアーティストたちが、今も歌っている動画が流れてくることがある。その姿を見て、「みんないい歳になったな」としみじみ思う。でも、不思議なことに、そこに残念さは感じない。むしろ、当時よりも美しく、深みがあると感じる。

何十年も経っているのに、どうしてそう感じるのか。たぶん、「いずれ誰もいなくなる」という事実が、今をいっそう尊く見せるのだと思う。

今、この瞬間に存在している。それだけで、じつは奇跡に近い。一期一会も、もののあわれも、侘び寂びも、終わりがあることを知る生き物だけが感じ取れる感性だ。

私は長く、ものづくりの現場に身を置いてきた。自社ではCNC加工機をつくっている。自動で加工する機械だと思われがちだが、実際には人が判断する部分が多い。ツールパスの組み方、材料への理解、工具の選び方、回転数や送り速度の微調整・・。どれも「人の感覚」がなければ成り立たない。

そして最後の仕上げのひと手間は、やはり人の手になることが多い。そのわずかな介在が、製品に深みを与える。

同じ形でも、同じ素材でも、つくった人や関わった人が違えば、出来上がる味わいは変わる。わずかな手の跡や判断のクセが、ものに温度のようなものを宿す。

有限の人が、有限の時間の中で作ったもの。その一回性が、ものをあたたかくする。数字や規格では測れない価値は、いつも人の「生」が染み込んだところから生まれる。

だから私は、人の手が関わったものが好きだ。それは、生きた証のように感じられるからだ。


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