縦型社会から横型社会へ
人類はこれまで、権力や財力を行使して人間が人間を支配するという「縦型」の社会を長く続けてきました。しかし近年、その構造はだんだんに実力主義的であり、パートナーシップ的な「横型」の社会へと変わりつつあります。
例えば、ものづくり業界の産業構造においても同じことが言えると思います。これまでの産業構造は長い間、大企業を頂点としたピラミッド型の縦型構造を成し、中小零細企業がその土台の役割を果たしてきました。しかし近年、グローバル化や新興国の台頭により、大企業の支配力が弱まり、その構造は崩れつつあります。その結果、中小零細企業は行き場を失い路頭に迷う企業が見られる一方で、これをチャンスと捉え飛躍のきっかけとし自立型企業を目指す企業が増えています。これが産業構造における「縦型構造から横型構造へ」の変遷です。この変遷の中で、中小零細企業たちが自立型企業を目指す上でまず最初にすることは、あらためて「自社の強み」を把握することです。自社の所有する設備や従業員の強みを徹底的に分析し把握するのです。そしてその上で、自社の強みを活かせる市場や商品とは何か?を考えるのです。
また、自立型企業を目指す以上、権力によって社員を支配する縦型な組織構造では、社員の持つ創造性を存分に発揮させることはできません。それに、全社員が一丸となって戦略を考えていかなければ、激しく変化する時代に即応することもできないでしょう。それには、企業内部においても各社員の自主性を尊重する「横型な組織構成」へと変えていく必要があります。
「自分の強みを分析し、それを活かす」ということに関しては、個人についても同様なことが言えます。終身雇用制度は終わり、これからは企業が自分の将来を保障はしてはくれません。自分の将来は自分で守らなければならない時代なのです。そのためには、自分の強みを徹底的に分析し把握する必要があります。そしてその上で、自分の強みを活かせる仕事や働き方は何か?を考えるのです。最近、ノマドワーカースタイルやフリーランスといった「自由な働き方」を取り上げた記事をよく見かけるようになったのは、社会が自然とそうした個人の動きを後押ししている一例です。
横型社会は、企業や個人に「主体性」を求めることになるでしょう。縦型社会というのは、悪い言い方をすると、一部の権力を持った者に多くの者が「支配」される社会と言えますが、逆の言い方をすると、社会や競合他社の動向、あるいは、自分のやりたいことや強みがわからなくても、忠誠心や従属性があれば、なんとか生きていくことができる社会です。ですから、縦型社会から横型社会へ変わってしまうと、これまでは忠誠心や従属性を重視してきたのに、それとは反対の主体性が求められるため、何をしたらよいかわからず、企業も個人も路頭に迷うことになるのです。しかし、この変化は、人間が人間を支配することのない尊厳ある社会を人類が望んいるからこその変化です。何者からも支配されない尊厳ある生き方ができる時代が到来しつつあるのですから喜ぶべきことなのです。だからこそ、上で述べたように自分の強みを把握することが重要ではないでしょうか。
ただ、強みを把握することは意外と難しいものです。特に日本人は自分たちのやってきたことの価値に対して無自覚で、海外の人がその価値を発見してくれることがしばしば見られます。さらに、これまでの教育は、大量生産大量消費時代を大前提とした教育であり、いかに効率よく生産するかという観点から、画一的な人間をつくってきたところがあります。このため、自分が本当にやりたいことは何か?自分はどんなことに向いているのか?ということを自問自答しないままに人生を過ごして来た人も多いかも知れません。
しかし現在では、クラウドソーシングなどを利用することで、企業に属せずに働くこともできます。また、たとえ学生であっても、ネットを使えば少額でビジネスを始めることができます。さらに、様々な設備や機器がパーソナル化、つまり、業務用として使用されてきたものがコンパクトかつ低価格になり、個人で導入することができるようになったため、個人でもメーカーになることだって可能なのです。
こうした働き方の変化が、私たちの社会を急速に縦型構造から横型構造へと加速させています。そしてその社会は、人々に高い「主体性」を求めることになるでしょう。