閲覧記事記事一覧へ

かえって悪かったね

昔、母がよく近所の奥さんたちに何かを差し上げると、後日そのお礼として何かをいただくことがあり、そのたびに母は「かえって悪かったね」と連発していた。私は「そんなふうに思うぐらいなら最初から何もあげなければいいのに」と子どもながらによく思ったものだ。

母は、それだけではなく、お祝いごとやお悔やみごとがあったときも、欠かさずお金を包んで渡していた。どうしてそういう一見意味のないことをするのか。お金や物が行ったり来たりしているだけで、結局はプラマイゼロじゃないかと。

その疑問に対する答えを、ずいぶん大人なってから、映画「ゴッドファーザー」の中で見つけた。

ドン・コルレオーネは、誰かに何かを頼まれたとき、お金を受け取らない。あえて「貸し」をつくっておく。そして、その相手に何か頼みたいことができたときに、貸しを返してもらう。そういう取り引きをすることで、自分の影響力を保っているのだ。

もしお金で取り引きしてしまえば、その場で貸し借りのない状態となり、簡単に関係は切れてしまう。そうなると自分の味方が減ってしまう。だから彼は、たくさんの貸しを作り、味方を増やしてきたのだ。

だが、2代目のマイケルは違った。そういう貸し借りは作らずに、すべてお金で済ませていた。だから彼は孤独だったのだろう。すべてが敵に見えていのたのかもしれない。

今の時代は便利になり、あまり人の世話ならずとも生きていける。だが、母の生きた時代はそうではなかった。いざというときのためには、周りや親戚の助けがどうしても必要だ。ましてや、私の家族は、父のいない母と私のふたりだけ。生活は楽ではなかった。だからこそ母は、義理を決して欠かすことはなかった。どんなに家計が苦しくてもだ。

そういう背景を思えば、私はあの「かえって悪かったね」という母の口癖を簡単には否定してはいけないのだと思った。


関連記事

2014年04月09日(水)

伝える時には

何かを伝えたり表現する時に、私たちは言葉を使います。このMISSIONMINDでも、記事の中では言葉や図解や写真を用いて、その伝えたい内容を表現しています。こ…

続きを読む
2024年12月01日(日)

世界がひっくり返る

続きを読む
2021年02月16日(火)

存在とは何か

人間は自ら作り出した存在に勝手にむかついたり、素晴らしいと感じています。だから客観などありません。主観しかないのです。

続きを読む
2025年11月22日(土)

素数の秘密

続きを読む
2025年11月02日(日)

私たちが見ている「現実」はどこまで本物か?

続きを読む