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日本のものづくりへの提言 ~感性と技術の融合~

日本のものづくりがこれからも世界で評価され続けるためには、作り手の「感性」を最大限に活かす製品をつくること、そして所有者の「感性」に響く製品をつくること。この2つが極めて重要だと感じています。これらを追求することが、日本のものづくりの強みを最大限に引き出す鍵だと思うからです。

作り手の「感性」を活かす製品づくり

作り手の感性とは、経験を通じて培われる勘やコツ、微妙な違いを見抜く力のことです。日本人は、何かを使ったときに「どうもしっくりこない」「なんだか違和感がある」といった細やかな問題を敏感に感じ取る能力に長けています。この繊細な感性こそが、世界に誇る高品質な製品を数多く生み出してきました。

しかし、以前に比べ、この優れた感性を活かす場面が減ってしまったと感じます。とくに家電製品がそうです。かつてはアナログ回路が多くを占めていた内部回路も、現在ではデジタルに置き換えられ、多くの機能がプログラムで実現されています。これにより、職人の感性による微妙な調整は不要となり、プログラムの変更で対応できるようになりました。感性が求められない製品では、競争力の源泉が価格に集中するため、日本の家電産業は人件費の安い国との価格競争に直面し、かつてのような優位性を保つことが難しくなったのです。

一方で、エンジンの開発では日本人の感性が今もなお活かされ続けています。燃焼プロセスをコンピュータでシミュレーションする技術は進歩しましたが、それだけでは優れたエンジンを生み出すことはできません。燃焼時の微小な乱流や局所的な燃焼挙動を完全にモデル化するのは困難であり、膨大な試行錯誤と実験が不可欠です。この過程で重要なのが、作り手の感性による微調整です。エンジン音や振動、燃焼効率といった数値では測れない要素に対して微調整を加えることで、日本のエンジンは世界が追いつけないほどの高い性能を維持しているのです。このことは、日本のものづくりの未来を考える上で、重要な示唆を与えてくれています。

所有者の「感性」に響く製品づくり

次に、所有者の「感性に響く」製品づくりについて考えてみます。感性に響く製品の代表例は、機械式腕時計です。人々が高いお金を出して機械式腕時計を購入する理由は、単に時間を知るためだけではありません。むしろ、それだけならデジタル式のほうが正確だし価格も手軽でしょう。機械式腕時計が持つ魅力は、その精緻なメカニズム、美しいデザイン、そして使い込むほどに増す愛着です。さらには、職人のクラフトマンシップやブランドの歴史といった背景が、所有者の感性を揺さぶり、その製品が「特別な存在」として愛されるのです。

感性に響く製品には、いくつかの重要な特長があります。その一つは、他社にコピーされにくいという点です。製品の物理的な形状や機能はコピーできても、そこに込められたブランドイメージまではコピーすることができません。たとえば、好きなブランドの時計を所有している人は、その模倣品には魅力を感じないでしょう。見分けがつかないほど同じ外観、同じ性能だったとしてもです。なぜなら、そのブランドの時計を所有していること自体に価値を感じるからです。こうした製品は、単なる道具を超えた魅力を持っているため、コピーを無意味にさせる力を持っているのです。

また、感性に響く製品は価格競争にも巻き込まれにくいという特長があります。性能や機能だけが重視される製品は、顧客がメーカーにこだわりません。顧客からすれば、性能や機能が用途を満たしていれば、どこのメーカーでもよいのです。しかし、感性に響く製品は、そのメーカーならではの魅力を備えているため、「このメーカーの製品でなければならない」と思ってもらうことができます。こうなると、顧客は価格に対して寛容になりますから、単純な価値競争の枠の外側に立つことができるのです。

さらに、感性に響く製品は、一つの市場に多くのメーカーが共存できるという特長も持っています。たとえば、コンビニの店内を見てみてください。ホッチキスやハサミはそれぞれ1種類しか置かれていないことが多いのに対し、ワインやタバコはあの狭い店内にいくつもの銘柄が並んでいます。ホッチキスやハサミは、機能さえ満たしていればよいので1種類で十分です。しかし、ワインやタバコは顧客の感性によって好みが分かれるため、多くの選択肢が用意されているのです。このように、感性に響く製品は、一つの市場に多くのメーカーが共存ができるため、競争が緩やかなのです。

ブランド戦略の重要性

感性に響く製品の価値をより高めるためには、独自の世界観やストーリーを基盤としたブランド戦略が不可欠です。製品そのものが優れているだけでは、人々の心に深く響くとは限りません。ブランド戦略によって製品にストーリーや背景を付加することで、その価値をより強固なものにできます。その取り組みが、製品を単なる「モノ」から心に響く「特別な存在」へと昇華させるのです。

日本のものづくりが持つポテンシャル

作り手の「感性」を活かす製品づくりと、所有者の「感性」に響く製品づくり。この2つを追求することで、日本製品は世界中で愛され、高価であっても選ばれる存在となれるのではないでしょうか。

機能や性能だけを魅力とする製品づくりは、技術がデータ化された瞬間に、どこの国でも生産が可能になってしまいます。しかし、感性を軸とした製品づくりは、ごく限られた国にしかできないでしょう。その点で、日本は世界最高水準のポテンシャルを有していると言えます。日本人は繊細な感性を持ち、その上、「メイド・イン・ジャパン」は世界に広く評価されており、高いブランドイメージを構築しやすい土壌があるからです。この実現には、私たち中小企業の存在は極めて重要です。大企業は効率的な大量生産で日本のものづくりを支えていますが、中小企業は柔軟性があり、一つひとつの製品に感性や情緒を付加しやすいのです。

もちろん、すべての製品に感性を取り入れる必要はありません。しかし、この視点を持つことで、日本のものづくりの未来は、明るくなるのではないかという希望を感じます。日本のものづくりが、これまで以上に尊敬される未来を築けることを信じています。


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