閲覧記事記事一覧へ

科学の限界を越える日本の力

私は、これからの時代は西洋中心の世界観が終わり、東洋思想を含んだ新しい地平へ移っていくと感じています。ただし、それは過去の東洋思想への回帰ではありません。西洋が極めてきた科学や合理性、そして個の意識を土台にしながら、その背後にあるもう一つの層を静かに接続していく移行です。この接続こそ、私がこれまで話してきた物質宇宙と意識宇宙の関係と重なります。

物質宇宙は「存在するから認識する」という、西洋科学が扱ってきた側の世界観です。対して意識宇宙は、「認識するから存在する」という、世界を立ち上げる側の働きです。

この二つは切り離せず、ちょうど裏表のように同時に成立しています。しかし、これまでの科学は表ばかりを扱い、裏側にある認識の働きを科学の中心には据えてきませんでした。意識研究そのものは欧米の学術界でも活発ですが、それはあくまで「意識を対象化して研究する」という枠組みの中にあります。認識そのものが存在を成立させるという視点までは、文化的にも方法論的にも踏み込めていません。

私は、科学が次の段階へ進むには、この裏側を欠落させたままでは限界が来ると思っています。意識宇宙をもう一度、世界を説明する構造のなかに接続したとき、科学は新しい広がりを持つはずです。ものを分解して理解するのではなく、関係や働きから現象を捉える姿勢が求められます。創発とは、要素ではなく「間」に宿る関係から、新しい階層が立ち上がる現象です。物質宇宙だけでも意識宇宙だけでも説明できず、両面を扱う視座こそが必要になります。

ここで、日本人の強みが大きな意味を持ちます。ドラッカーが明治維新を世界史でも稀有な成功例と評価した理由にもあるように、日本は異質なものを混乱させず同化する力を持っています。仏教と神道、伝統と西洋文化、民主主義と日本的価値観。これらを衝突させず「同時に成り立たせてしまう」この特性は、物質宇宙と意識宇宙を橋渡しするうえで極めて重要です。

さらに日本人には、世界を要素ではなく関係として感じ取る感性があります。間、気配、空気、調和。これは意識宇宙の感受性です。そして、この「つながりを感じ取る力」こそ、欧米の学術がまだ扱いきれていない領域でもあります。

いま世界は、合理性だけでは前に進めなくなっています。AIが理性の領域を代替し、数値化できる価値の希少性が落ち、意味や物語、感性といった領域がより重要になっています。科学も経営も文化も、物質側だけでは語れない時代に入っています。

だからこそ、日本が担う役割はこれから大きくなります。物質宇宙と意識宇宙を統合する次の科学。その鍵は、日本人の感性と同化力、そして「つながりを感じ取る力」です。理性と感性、表と裏、西洋と東洋。そのどちらかではなく、両方を同時に成立させる視点。私はそこに、これからの時代の中心があると感じています。


関連記事

2020年04月04日(土)

心の時代の到来

私たちには今、生きるために必要なものは十分に揃っている。しかし、何のために生きるのか。どんな意味があるのか。それに答えてくれるものが何もない。

続きを読む
2025年10月29日(水)

宇宙のしくみ ~無と有のあいだ~ 最終章

続きを読む
2014年03月31日(月)

日本から潮流を

いま、ものづくりの世界では革命が起きています。しかしその潮流は、ほとんどが海外を源流としているもので、メイカーズとか、パーソナルファブリケーションとか、オープ…

続きを読む
2014年04月03日(木)

お金に支配されてしまう心

お金というのは、価値と価値を交換するための仲介として人間が作った「道具」です。ちなみに、交換する価値というのはサービスであったり製品であったり技術であったり…

続きを読む
2025年10月22日(水)

分離の時代を超えて、「ひとつ」を取り戻す

続きを読む