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デザインとは、創発を感じ取る力

私にとって、デザインとは何か。まずデザインするとき、私は「美しいものを作りたい」と思います。では、美しいとは何でしょうか。どういうときに、人は美しさを感じるのでしょうか。

私が思うに、美しさとは「創発が生まれる予感」です。まだ形になっていない何かが、今にも生まれようとしている。その瞬間に立ち会ったとき、人は美しさを感じるのではないでしょうか。

宇宙は、まさにその創発の連続によって成り立っています。ビッグバンという爆発ではなく、秩序がほどけては再び結び直される、その繰り返しです。そこから生命が生まれ、人間という高度な知性が生まれました。宇宙は創発を通して、「自分を知りたい」という意志を実現してきたとも言えます。

その過程で選ばれてきたのは、単に強いものや便利なものではありません。次の創発を生み出す「美しい構造」だったのだと思います。この「創発を生み出す秩序」こそ、私たちが感性で「美しい」と感じる源泉です。つまり、美とは創発を導く羅針盤であり、宇宙の進化原理と人間の感性は深くつながっているのです。

私たちが何かを生み出すときも同じです。デザインとは、単に形を整える行為ではなく、「関係性をデザインする行為」です。私たちがユーザーと一体となり、その関係性の海に溶け込むとき、創発が起こります。海から魚が生まれるように、人と人、技術と感性のあいだから、新しい道具が生まれるのです。

私たちの会社は、ものづくりのための道具を作っています。しかし本質的には、「ものづくりという海を豊かにする」ことが目的です。ユーザーという海の中に私たち自身も溶け込み、その関係性から生まれる創発を感じ取る。それこそが、デザインの最も美しい瞬間だと思います。

私は「用の美」という言葉が好きです。それは、実用という海から自然に生まれる美のこと。当社の製品も、装飾だけを目的とした部品は一つもありません。構造上必要だから存在している部品ばかりです。それらが結果として美しさを生み出している。そこに「用の美」の精神と、私の考えるデザインの本質が重なっています。

サイエンスは秩序を記述し、デザインは秩序を生み出す。理性と感性、その二つの力が共鳴するとき、創発が生まれる。私はその瞬間を「美しい」と感じます。デザインとは、創発を感じ取る力なのです。


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