経営者の責務
これまで経営者には、社員とその家族の生活を守るという役割が求められてきたように思います。もちろん、これからもそういった強い責任感の下で経営を行わなければならないことに変わりはないと思いますが、その手法を、従来とは少し変えていかなければならないと感じています。いま若者が企業に求めているものは何でしょうか。これまでと同様に生活保障を求めているのでしょうか。
私はそうではなくなってきていると思っています。というのは、今や企業の寿命は、時代の変化の激しさから年々短くなる傾向にあり、それとは反対に個人の寿命は伸び続けています。個人の寿命以上に長く続く企業は全体のうちのごくわずかで、将来は、もしかしたらゼロカンマの次にゼロがいくつ続くかわからないぐらいの割合でしか存在できないのかも知れません。終身雇用制度の崩壊などを通じて、いかに企業が不安定な存在かということを目の当たりにしてきた若者は、そのことを無意識ながら良く知っています。なので、もし企業から「あなたの生活を保障します」と言われても、それを簡単に信じるわけにはいかないというのが本音ではないでしょうか。
ですから若者は、安定した組織に属することで自分を安定させるというような、公務員的なイメージで自分の身を守るのではなく、自分の能力を高めることで安定させるという考えに、変わってきているのではないでしょうか。若者が会社に「生活保障」ではなく、「自分の能力の向上」を求めるのだと思います。したがって我々経営者は、社員の強みを100%発揮させ、能力を高めさせることが重要になってきます。そしてそれが結果的に社員とその家族を守ることに繋がるのです。
そもそも、この生活保障なり終身雇用というのは、社員のためのように見えて、実は経営者のお金の力による支配統制という側面も垣間見ることができます。つまり生活を保障する代わりに、どんなことも我慢して指示命令に従いなさいという背景を感じさせるのです。組織に属さなくても働ける環境が手に入るようになった今、若者はその支配から解き放たれ、自分の好きなこと、得意なことを通して社会に貢献しようとしています。人は誰しも、誰からの支配を受けることなく、自分らしい生き方、尊厳ある生き方をしたいと願っているのです。だからこそ経営者も、力による支配を感じさせる慣習を捨て、若者の新しい労働観に合わせた仕組みを再考すべき時が来ているのだと思います。