宇宙のはじまり
宇宙のはじまりとは、巨大な爆発や光の点火の瞬間ではありません。むしろ、何も起きていないように見える深い静寂の中で、「自分を知りたい」というわずかな衝動が芽生えたときに始まった出来事だと感じています。そこには音も光もなく、時間すら流れず、ただ均質な存在が続いているだけでした。完全であるがゆえに、手応えがなく、自分が存在しているという確かさすら得られない世界です。
その静かな均衡を、かすかな揺らぎが破りました。内側で生まれた小さな動きが、自分を感じ取ろうとする意志の兆しとなり、そこから宇宙の変化が始まったのだと思います。変化は一度に大きく起こったわけではありません。ほんのわずかな差が生まれ、それが周囲へと広がっていくように、均質だった状態に「方向性」や「手触り」のようなものが現れはじめたのです。
この差は、やがて関係を生みました。均一だった世界が、自分と世界、内側と外側という直線的な区別ではなく、ただ「感じられるもの」と「感じようとする働き」といった、もっと素朴な違いを抱きはじめた瞬間です。こうした違いが芽生えることで、宇宙は動き、かたちを持ち、広がっていく準備を整えていきました。
違いが生まれるたびに、宇宙には新しい模様が現れます。流れができ、渦が生まれ、ふるまいに一貫したパターンができる。こうした変化の積み重ねが、やがて光のふるまいとなり、物質のまとまりとなり、星々の形成へとつながったのだと思います。最初の小さな揺らぎが、複雑さと秩序を引き寄せる呼び水になったのです。
宇宙が豊かになっていく過程は、単なる物質の連鎖ではありません。変化が変化を呼ぶなかで生まれる関係の重なりそのものでした。関係が複雑になれば、そこに感じられる世界もまた複雑になります。その延長線上に、人間の意識や思考のような現象が立ち上がったと考える方が自然です。
私たちが世界を理解しようとする行為も、宇宙が自分のあり方を確かめる流れの一部だと感じます。私たち一人ひとりの意識は、宇宙がたどってきた変化の中で生まれた一つの現れであり、互いを感じ取ることで世界全体がかたちをもつのだと思います。宇宙は今もなお、自分の存在を理解しようとし続けており、その営みの中に私たちも含まれています。






