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新元号「令和」によせて

私は、最近の世界情勢を俯瞰的に見てみると、グローバリズムから反グローバリズムの方向にゆっくりと動いているのではないかと感じています。

トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げ、反グローバリズムの方向に動いていると思いますし、イギリスも、EUから離脱できるかまだわかりませんが、意思としては反グローバリズムの方向を向いているように思います。これは、主権をエスタブリッシュメントから国家に戻そうとする動きであると認識しています。

実はこれと似たようなことが、私たちの身の回りでも起きています。つまり、会社から独立し、起業したりフリーランスになり、自分らしい生き方を選ぶ人たちが増えているということです。一部の支配者による中央集権的な社会から、自律分散型の社会に変わってきています。これは本質的には、反グローバリズムと同じ動きではないでしょうか。

ところで、私は自分の会社の組織づくりをするにあたり、目指すべき理想的な組織は、「自立した個の連携」であると思っています。これは、社員一人一人が自分の強みを生かしながら有機的に連携し、ひとつの生命体のように活動する組織です。社員はまず全体の成果を考え、そのために自分は何ができるか、という順序で考えます。そのことが結果的に「個の幸せ」につながっていきます。

私は世界の国々も同様にそうなってくれたら、と願っています。世界全体が平和で豊かになるように、各国がそれぞれの強みを活かしながら連携する社会です。それが結果的に自国の幸せに繋がるはずです。

しかし現状では、分散しただけで、自国・ファースト、自社・ファースト、自分・ファーストに留まっているような気がするのです。でも本当に世界全体が平和で豊かになるためには、連携が生まれなければなりません。それこそが、本当に平和で豊かな未来社会を築けるかどうかのキーワードになると私は思っています。

もし、今起きている分散への動きを、そこに向かうためのステップだと考えたなら、次のステップである「連携」が生まれるようにするにはどうしたらいいか。実はそのキーワードが「日本」にあると私は思っています。

いつだったか、チームラボのイベントに行ったとき、西洋では空間を「自分と自分以外を分けたパースペクティブ」で認識するのに対して、日本人は「超主観空間」といって、空間の中に自分を含めて認識しているということ知りました。つまり、西洋では自分と世界が切り離されていて、それを客観的に観察している。でも日本人は、自分と世界が繋がっていて、その一部であると認識しているということです。

それは、日本語と英語の比較からも感じ取ることができます。たとえば「人が丘に立っている」という文章を英語にすると「He stands on a hill.」となりますが、英語では「人」が男(he)なのか、それとも女(she)なのかや、単数なのか複数なのか(standのあとに「s」をつけるかつけないか)をハッキリさせなければなりません。ところが日本語の場合、それが男なのか女なのか、単数なのか複数なのかをハッキリさせなくてもよいのです。そして、対象よりも「場」に重きを置いているので、「人」について曖昧なままでも不自然ではないのです。

これらは何を意味するのかというと、日本人は「自分と自分以外」の間に、明瞭な境界線を引いていないということです。つまり、一般的に「自分」とは、皮膚の内側を指しますが、日本人における「自分」とは、もっと範囲が広く「場が自分」なのです。そして、「個」よりも「場」を上位の概念としているのです。なので自然に、全体の幸せを考え、その次に自分は何をすべきかという順序で考えることができる。実はこの感覚こそが、人々に共同体意識を芽生えさせる「和の心」であり、連携をもたらす世界の宝ではないかと私は思うのです。

何を言っているのか伝わりにくいかも知れません。しかし、いま世界中で起きている様々な問題の原因を究極的に掘り下げていくと、「自分と自分以外を切り離して世界を認識する」という西洋的な認識方式にあることに気づきます。その認識方式の延長が、自国と他国、自社と他社、自分と他人というように、対象を「自分とは別」と考えてしまうようになったのではないでしょうか。その結果、人々は私的な利益の追求に走ってしまい、現在のような状況を生んでしまったと思うのです。

私たちの体は60兆もの細胞でできています。つまり60兆もの個が連携してひとつの生命体をつくっているのです。それぞれの細胞はあまり高度なことはできません。でも、それが集まり連携すると奇跡が起きます。たとえば、細胞一つ一つには感情がないのに、それが60兆集まった人間には感情があります。そうした信じがたいほどの奇跡が連携によって生まれるのです。

ですから私たちも分散して「個」になるだけではなく、それらが連携して世界全体がひとつの生命体のようになることができれば、世界を一気に素晴らしいものに変えることができるはずです。それには、自分と自分以外の間に境界線のない「和の心」が必要だと私は思うのです。

ただ、心配なことがあります。日本人はその和の心を持っているがゆえに「個」より「場」に重きを置いています。だから、いかに立派なことをしても、「みんなのおかげ」というように考え、自分だけの功績にしたりしません。もちろん、そうした謙虚さがあったからこそ、日本人は海外から多くを学び、それらをうまく融合させて優れた文化を創り上げてきました。しかし今、その謙虚さが逆に短所となり、世界の宝である「和の心」が失われつつあるのです。

私は、ものづくりの世界にいるのでよくわかるのですが、すごく素晴らしいものを作っても、その謙虚さから「たいして価値のないもの」と決め付けてしまっている人が多いのです。それどころか、海外から入ってきたものをカッコ良いと考え、自分たちのつくったものを否定してしまうことさえあります。なので、海外の人がその価値を日本人より先に発見するといった場面がよく見られるのです。

日本政府はこの4月から、外国人労働者の受け入れを拡大し、今後5年間で最大34万人の受け入れを見込んでいるそうです。すでに日本は現在でも「世界第4位の移民大国」とも言われています。外国人を受け入れることは、もちろんたくさんのメリットもあると思います。しかし、今後外国人と接する機会が増えていく中で、そうした短所を無自覚なままでいると、数十年後には日本が日本でなくなってしまうかもしれません。そして和の心まで失ってしまったら、世界に平和が来る日はかなり遠のいてしまうのではないかと危惧しています。ですから、和の心こそ世界の宝であることを再認識し、どうかそれだけは失わないように、と願わずにはいられません。

安倍総理は新元号「令和」の発表にあたり、「令和には、人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つという意味が込められている」と言いました。私はこの令和の時代に、人々が和の心をもって寄せ合い、世界全体がひとつの生命体のように協力しあって、平和で豊かな未来社会にしていくこと、それをみなさんと一緒に担っていきたいと思っています。


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