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理性から感性へ ~心で歩く旅~

私は、理性の時代から感性の時代へと移り変わっていることを、旅のあり方の変化に感じます。

かつての旅行は、極端に言えば「行ったという事実をつくるための行為」だったように思います。戦後の日本は長く物資の不足した時代であり、豪華さや贅沢がそのまま豊かさの象徴でした。だからこそ、有名な観光地を巡り、写真を撮り、名産品を買うことが旅の目的になっていたのです。「ハワイ」「京都」「沖縄」といった地名そのものがステータスであり、そこに行ったという記録が幸福の証でした。

そうした旅は多くの場合、団体旅行という形で行われました。効率よく名所を巡り、同じ時間に同じものを見て、同じ食事をとる。いわば大量の旅人を運ぶベルトコンベアのような仕組みの中に、旅が組み込まれていたのです。

しかし、今の旅行者たちは違います。少人数で、静かに、その土地の空気や人々の営みを感じながら旅をしています。団体旅行のように多くの人のリズムに合わせる必要がなく、目の前の風景や空気の揺らぎに心を傾けることができる。大量の観光客に囲まれた中では得られなかった、ゆっくりと心が自分の内側に沈んでいくような時間が、そこにはあるのです。だからこそ、人々は少人数で旅をするようになったのだと思います。他者のペースではなく、自分自身の呼吸で風景を味わうこと。それが、しみじみと感じる旅を可能にしているのでしょう。

このような旅のスタイルは、観光学で言う「スローツーリズム」に通じています。効率や経済性を重んじたマスツーリズム(大量観光)から、地域の文化や人との関わりを大切にする旅へと移り変わっているのです。近年の研究では、旅を「知る」よりも「感じる」経験として捉える傾向が強まっており、五感で味わう体験こそが旅の価値を形づくるとされています。

理性の時代が「知るための旅」だったとすれば、感性の時代は「感じるための旅」。それは、私たちの生き方そのものが、外側の評価から内側の実感へと移り変わっていることの象徴なのかもしれません。


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