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神から力へ、そして感性へと向かう宇宙観

宇宙を司るものは何かという問いに対して、人類は長い時間をかけて答えを変化させてきました。太古の人々は、それを「神」と考えました。雷も風も日食も、人知を超えた現象は「神意」として受け止められ、人は畏れとともに秩序を感じ取って生きていました。しかし科学が登場すると、世界の理解は大きく転換しました。現象は「力」によって説明できると考えられるようになり、日食は不吉ではなく、天体の位置関係によって起きる自然現象として受け止められるようになりました。科学は、説明できないものに対する不安を消し去る役割を果たし、人々は「見える世界」を安心して理解できるようになったのです。

ところが科学が発展すればするほど、説明できる領域の裏側に、説明できない領域がより輪郭を持って現れてきました。「意識」とは何か。「なぜ世界を感じ取れるのか」。そして「創発」はどのように生まれるのか。要素を分解し、法則で記述し、因果で説明しようとするほど、力だけでは到達できない問いが濃密さを増していきます。

創発という現象を考えると、それは要素そのものではなく、要素間に生じる「関係性」から生まれます。しかし「関係性」とは、単なる配置ではありません。そこには働きかけと応答があります。もし要素が完全に無感受であったなら、「関係」は成立せず、宇宙はこれほど複雑にも美しくも発展しなかったはずです。むしろ宇宙には、秩序を形づくろうとする働き、つまり「意思」が息づいていると考えるほうが自然です。偶然の積み重ねだけでは、人間ほどの知性や、美と神秘を湛えた宇宙は生まれなかったでしょう。

この視点に立つと、私たちが「感性」を科学に取り込む必要が見えてきます。「感性」とは、定義によって理解するのではなく、感じ取り、意味を読み取る力です。世界とは、自分の外側だけで成立しているのではありません。意識の内側で生成される像と、外側の現象が重なり合って立ち上がります。物質宇宙と意識宇宙は裏表の関係にあり、「存在」と「認識」は切り離せません。この構造を理解するための回路こそが「感性」なのです。

ところが科学は「意識」や「認識」という語を避けがちです。神を退け、目に見えるものだけを扱う体系として成立してきた歴史が、その理由を物語っています。しかし、科学だけに世界理解の鍵を委ねる時代は終わりつつあります。意味を読み取り、世界と共鳴し、創発を感じ取る力が求められています。皮肉なことに、これから科学を前に進めるのは、旧来の枠組みに固執した科学者ではないでしょう。「文系的素質」を持ち、「関係性」を感じ取り、「宇宙を意味づける感性」を備えた人です。

宇宙を司る概念は変遷してきました。「神」という意志。「力」という法則。そしてこれから訪れるのは、「感性」という創発の源泉です。説明より実感が、法則より共鳴が、人間の世界理解を導く時代がはじまっています。科学の限界が示しているのは終点ではなく地平です。「感性」という新しい宇宙の入口なのです。私はその変化を確かに感じています。


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