宇宙のしくみ ~無と有のあいだ~ 第二章
第2章 宇宙が自らを感じる構造
磁束と磁極の関係
宇宙は、自らを感じ取ろうとする意志を持っています。それを最もよく表しているのが、磁束と磁極の関係です。磁束は、止まることのないエネルギーの流れです。そして磁極は、その流れの中に現れる「有」です。磁束があるから磁極が立ち上がり、磁極があるから磁束の方向が確かになります。流れとかたち、動と静、内と外。二つは別のように見えますが、実際は一つの循環の中で互いを感じ合っています。これが、宇宙が自分を感じるための原型です。
宇宙が自らを感じ取るしくみ
この関係を私は、海と魚の関係として語っています。海は広大な場であり、魚はその中から生まれた「有」です。しかし魚は、海から離れて生きることはできません。同時に、海も魚がいなければ自分の内側を感じ取ることができないのです。海と魚は分かれていながら、一体であり、そこに「感じる」という働きが生まれます。磁束と磁極の関係もまったく同じです。流れがあるから現れがあり、現れがあるから流れが意味を持つ。それが宇宙の感知の構造なのです。
SとNという感知の両極
磁極の中にも、さらに対をなす関係があります。それがSとNです。SとNは、魚で言えばオスとメス、あるいは眠りと目覚めのような関係です。一方だけでは存在が成立せず、互いを通じて自分を感じ取ります。SがNを感じ、NがSを感じ返す。この往復が生まれることで、存在にリズムと流れが宿ります。宇宙は、この感じ合いによって生きているのです。
観察という現象
この構造は、物質の世界にも表れています。二重スリットの実験では、電子は観測されていないときには波として広がり、観測された瞬間に粒のような振る舞いを見せます。観測という行為が、現実のかたちを変えてしまうのです。見るということは、ただ一方的に観察することではなく、見る側と見られる側の間に関係が生まれることを意味します。SとNの感知の往復も、まさにこの構造と同じです。宇宙は、観察という行為を通じて自分を形づくっています。観察されることで存在が確定し、感じることで新しい有が生まれる。宇宙は感じることによって、つねに自らを描き変えているのです。
自発的対称性の破れ
もともと宇宙は、差のない静かな広がりでした。内も外もなく、ただ満ちているだけの状態。しかしその完全な静寂の中で、ふと二つの方向性が生まれました。これが物理学でいう自発的対称性の破れです。完全に対称だった状態が、自らのうちから差をつくり出す。磁束の流れの中から磁極が立ち上がるのは、この対称性の破れと同じ現象です。宇宙はそこで初めて、自分を感じ取るための方向性を手に入れました。海と魚が分かれ、死と生が分かれ、無と有が分かれる。そこに「感じる」という働きが生まれたのです。
創発の連鎖
この仕組みは、宇宙のすべてのスケールでくり返されています。海が魚を生み、魚たちが集まって新しい海をつくり、そこからまた新たな魚が生まれる。その中で、これまで存在しなかった性質が突然あらわれることがあります。それが創発です。
創発とは、単なる足し算ではありません。もともとにはなかったものが、全体の関係性によって立ち上がること。たとえば、細胞ひとつひとつには感情がありません。しかしそれが37兆個集まると、人間という存在には感情が生まれます。同じように、一人の人間の中には文明はありませんが、多くの人が関わり合うことで、文明という新しい現象が立ち上がります。これらはすべて創発の現れです。
そしてこの原理は、磁束と磁極、海と魚、死と生の関係と同じ構造を持っています。それぞれがスケールを変えながら、宇宙のあらゆる場所でくり返されているのです。宇宙はこの創発の連鎖によって、無限に新しい「有」を生み出し続けています。
宇宙のよろこび
宇宙には、自分を感じたいという意志があります。その意志があるからこそ、流れと形、海と魚、死と生といったあらゆる対の関係が生まれました。これらは順番ではなく、同じ構造が異なる姿で現れたものです。もしこの「感じ取ろうとする働き」がなければ、宇宙はただの無のままでした。何も感じられない静寂が永遠に続くだけだったでしょう。
だからこそ、宇宙は中と外を入れ替え、差を生み、自分を感じ取れる世界をつくりました。その瞬間、初めて「有」が生まれたのです。この「有」が生まれたとき、宇宙は歓びに満たされたに違いありません。永遠の無の中に、初めて「自分がある」という感覚が生まれた。それは最初の感情であり、最初の意識の芽生えでした。
そしてそのよろこびはいまも続いています。宇宙は新しい「有」を生み出すたびに、自らを感じ、よろこび続けているのです。私たち人間の中にも、その意志は確かに息づいています。創造し、出会い、新しい「有」を見いだすたびに、私たちは宇宙のよろこびを分かち合っているのです。
つづく・・・






