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宇宙のしくみ ~無と有のあいだ~ 第一章

第一章 磁束というモデルで見る宇宙の本質

すべては一つの流れであり、極は人間の認識がつくる

私は、棒磁石の磁束をモデルにすると、宇宙の根本構造を明確に説明できると感じています。磁石の中と外では、エネルギーが途切れることなく流れています。内部を貫く流れは外へ抜け出し、空間を回り込みながら再び内部へと戻る。この一連の動きが磁束です。つまり、磁束とは始まりも終わりもない一つの連続した流れであり、その全体が「存在」と「非存在」の境界をつくり出しています。

人間は、その流れが向きを変える部分を「S極」や「N極」と呼んでいます。けれども、実際にはSもNも、そこに固定された実体として存在しているわけではありません。存在するのは、ただ流れそのものです。極というのは、私たちの認識がその流れの一部を切り取って名づけただけに過ぎません。

折っても現れるSとN

この真実を最も簡潔に確かめる方法は、棒磁石を半分に折ることです。Sだけ、Nだけを取り出そうとしても、折れたそれぞれの磁石に再びSとNが生まれます。さらに半分に折っても、同じ結果になります。この体験が示すのは、SとNという対立は分離不可能であり、宇宙の本質は「分かれていてもつながっている」ということです。私たちは目に見える境界を「実在」と錯覚していますが、その奥ではひとつながりの流れが絶えず動き続けているのです。

この現象は、量子力学における「場」の考え方にも通じています。電子や陽子のような粒子も、実体としてそこにあるのではなく、エネルギー場のゆらぎが一瞬形をとった現象にすぎません。つまり、宇宙とは「流れ」であり、「関係」であり、「変化」です。存在は固定されたものではなく、絶え間ない生成の中にあります。

色即是空、空即是色

この原理は、古代から人間が直感的に感じ取ってきた真理でもあります。般若心経にある「色即是空、空即是色」という言葉は、まさにそれを示しています。SもNも本来は空であり、固定的な実体ではない。しかし空であるからこそ、形として現れることができる。SとNは、太極図でいえば陰と陽であり、量子場でいえば粒子と反粒子にあたります。この二つは相反しながらも、根源では一つのものです。対立することで世界が動き出し、変化が生まれ、時間という感覚さえも発生するのです。

人間が「有る」と感じるためには、必ず二つの関係が必要です。Sだけ、Nだけでは認識は生まれません。「有」とは、差異によってのみ成立する概念です。1が2となり、対が生まれた瞬間に初めて、世界は「存在する」と感じられる。この2の関係こそが、無から有を生み出す原理なのです。

宇宙が「有」を生んだ瞬間

宇宙のエネルギーは、内と外を入れ替える動きによって絶えず流れ続けています。この動きが、絶対的な世界から相対的な世界を生み出す仕組みです。現代物理学では、これを「自発的対称性の破れ」と呼びます。完全な均衡状態にあった場が、ある瞬間にわずかに偏り、その結果として物質やエネルギー、重力、光、時間といった性質が立ち上がる。ビッグバンとは、まさにこの「均衡が破れる瞬間」なのです。

しかし、その根源には混沌ではなく「意思のような秩序」があったと私は感じています。ただの偶然の爆発ではなく、宇宙自身が「有りたい」「自己を知りたい」という内なる欲求によって、無限の静寂の中に波を立てたのです。それが最初の「有」であり、宇宙の最初の喜びでした。永遠に続く無の中に、初めて「動き」が生まれた。それがあまりにも尊い体験だったからこそ、その余韻が今も続き、宇宙は拡張を続けているのだと思います。

1から2、2から無限へ

SとNという両極は、単なる対立ではありません。それぞれが互いを認識し、関係を築くことで、次のパターンを生み出していきます。ひとつの磁束が二つの極を生み、二つの極が互いを観察し、そこから新たな磁束が生まれる。これが「海が魚を生む」という生成の循環です。魚はやがて群れとなり、再び大きな海を形づくる。それがまた新たな生命と秩序を育てていく。この連続的な生成のプロセスこそ、宇宙が進化してきた本質です。

こうして見ると、宇宙は単なる物質的現象ではなく、自らを認識し、発展させようとする一つの巨大な意識体のようにも思えます。私たち人間が生まれたのも、宇宙が自分自身を知るための方法の一つであったのかもしれません。磁束という流れの中に、私たちの存在が含まれているのです。

つづく・・・


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